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東京地方裁判所 平成5年(ワ)22420号 判決

原告

根本雅嗣

ほか一名

被告

川松亀蔵

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らそれぞれに対し、各金一一六七万〇三七五円及びこれに対する平成四年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠によつて容易に認定しうる事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成四年八月一〇日午後一〇時三四分ころ

(二) 場所 茨城県つくば市谷田部六五二七番地四先交差点(以下「本件交差点」という。)。

(三) 態様 訴外根本茂(以下「亡茂」という。)は、本件交差点付近を境田方面から上横場方面へ向けて自動二輪車(登録番号「土浦え二二三六」、以下「原告車」という。)を運転して走行中、本件交差点で停止中の被告運転の普通乗用車(登録番号「土浦三三そ四六九一」、以下「被告車」という。)と衝突した(甲四)。

その結果、亡茂は、平成四年八月一四日、急性硬膜下血腫により死亡した。

2  相続

原告根本雅嗣及び原告根本くには、亡茂の両親であり、亡茂の死亡によりその権利を相続した(甲二)。

3  損害の填補

原告らは、自賠責保険から三〇〇〇万円を受領している。

二  争点

1  責任及び過失相殺

(一) 原告の主張

亡茂の走行していた道路は(いわゆる県道サイエンス大通り、以下「県道」という。)、優先道路であり、被告車の走行してきた道路(以下「市道」という。)には一時停止の標識があつたから、被告は、本件交差点に進入するに際し、一時停止の上、左右の安全を十分に確認して交差点を通過すべき注意義務があるにもかかわらず、被告は、これを怠り、左右の安全を十分に確認しないまま漫然本件交差点に進入し、その中央に至つて進行方向左側の安全を確認するため、急停車して本件事故を惹き起こしたのであるから、自賠法三条に基づき本件事故により発生した損害を賠償する義務がある。

(二) 被告の主張

被告は、本件交差点に進入するに際し、一時停止して左右を確認した上本件交差点に進入したが、県道は片側二車線であるため、進行方向左側の安全を再度確認するため、中央分離帯を跨いで一旦停止したところ、突然原告車が被告車の後部に衝突したもので、被告には何ら過失はなく、本件事故は、もつぱら亡茂の前方不注視により惹き起こされたものである。

仮に、被告に過失があるとしても、亡茂の過失は大きいから、大幅な過失相殺がされるべきである。

2  損害

原告らは、本件事故に基づき亡茂に発生した損害として、〈1〉葬儀費用、〈2〉逸失利益、〈3〉慰謝料、〈4〉弁護士費用を主張し、被告は、その額及び相当性を争う。

第三争点に対する判断

一  本件事故態様

1  証拠(乙一の一ないし四、乙二、被告本人尋問の結果)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件交差点は、別紙図面のとおり、境田方面から上横場方面に通ずる、片側二車線、車道の幅員片側各約六・九メートル、中央分離帯の幅員約二・〇メートルの歩車道の区別のあるほぼ直線の、見通しの良い平坦な県道上にある。県道は、舗装され、速度規制はなく、市道と交差する本件交差点には、信号機は設置されていない。市道に対する見通しは、右方は良くないが、左方は畑であるため良い。また、本件交差点には、街灯が設置されており、やや明るい。なお、本件事故当時、県道の交通量はさほど多くはなかつたが、高速度で走行する車両が多かつた。

(二) 被告は、被告車を運転し、市道を西から東に向けて進行し、別紙図面〈1〉地点で一時停止標識に従い一時停止した。県道は、高速度で走行する車両が多く、被告車の進行方向右側の約六〇メートル離れた交差点の信号が赤色表示にならないと交差点に進入できないため、これを待つて、右信号が赤色を表示し、右側から進行してくる車両がないことを確認して本件交差点に進入を開始した。次に、被告は、被告車の進行方向左側の交差点から右左折してくる車両があること、高速度で走行する車両が多いことなどから、別紙図面〈2〉地点で、被告車進行方向左側の安全を確認するため、停車した。左側から車両が来ないことを確認して、発進しようとしたところ、原告車が被告車の右側後方のタイヤ部分に衝突した。

(三) 亡茂が進行してきた車線は、被告車が中央分離帯を跨いで停止していたため、進行方向右側が約一・一メートル塞がれ、その左側車線まで約二・〇メートルあいていた。衡突地点は、別紙図頁〈×〉地点で、西側歩道から約五・八メートル東に離れた地点である。本件交差点付近の県道上に、原告車によるスリツプ痕が一一・五メートル残されている。

2  以上の事実によれば、本件事故当時は、夜間であり、本件交差点に街灯が設置されていたとはいえ、付近はやや明るい程度にすぎず、県道は高速度で走行する車両が多いのであるから、被告としては、市道から優先道路である県道と交差する本件交差点を通過するに際し、交差点進入時に左右の安全を十分に確認するのみならず、県道を走行する車両の進路を妨害しないように、注意しながら進行すべき義務があるにもかかわらず、被告には、これを怠り、交差点に進入する際、被告車の進行方向右側の約六〇メートル離れた交差点の信号機が赤色を表示し、この時点で右側がら進行してくる車両がなかつたことに気を許し、左方の安全を確認せず、交差点に進入して中央分離帯を跨ぎ、原告車の進行路を妨害した過失があつたことを否定することはできない。被告が、本件交差点に進入時及びその通過中に左右の安全確認を怠らなければ、原告車の通過を待つか、原告車の進路を妨害しないようにさらに進行するかの措置を採り、本件事故を回避することができたことは容易に推認できる。しかし、他方、スリッープ痕の長さに照らせば、原告車はかなり高速度で進行してきたことが推測されること、原告車進行路は、被告車により、約一・一メートル塞がれていたとはいえ、その左側は約二・〇メートルあいていたのであるから、前方を注視していれば、本件事故を回避するのは容易であつたと考えられることなどから、亡茂の前方不注視等の過失は極めて大きいといわなければならない。

右の亡茂と被告の各過失を比較すると、本件事故により亡茂に発生した損害の六割を減ずるのが相当である。

二  亡茂の損害

1  葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

(請求 一七〇万円)

甲三の一ないし二〇によれば、亡茂の葬儀費用として一七〇万円を要したことが認められるところ、このうち被告が賠償すべき額としては一二〇万円が相当である。

2  逸失利益 四五〇八万一一六九二円

(請求 四七七三万七四〇二円)

甲一、甲八ないし一一、甲一三の一、甲一五の一によれば、亡茂は、高校及び専門学校を卒業した後、昭和六三年一〇月から本件事故に遭つて二四歳で死亡するまでトヨタビスタ西茨城株式会社に整備士として勤務し、本件事故の前年である平成三年には、二九四万一一五九円の収入を得ていたこと、亡茂は、国家資格を有し、社内の技術検定試験にも合格していたことから、本件事故に遭わなければ、今後収入の増加が見込まれたことなどが認められるのて、亡茂の逸失利益は、二四歳から六七歳まで、平成四年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計の高卒・男子労働者・全年齢の平均年収五一三万八八〇〇円を基礎とし、亡茂の生活状況に照らし、生活費として五〇パーセントを控除するのが相当である。そこで、中間利息をライプニツツ方式(二四歳から六七歳までの二三年間に該当する係数は一七・五四六である)により控除して逸失利益の現価を計算すると、次のとおりとなる(円未満切捨て)。

5,138,800×(1-0.5)×17.546=45,082,692

3  慰謝料 一八〇〇万〇〇〇〇円

本件事故に遭つた際に亡茂の被つた苦痛、恐怖、本件事故から死亡までの四日間意識不明であつたこと、わずか二四歳で前途を断たれた無念さ及びその他諸般の事情を総合的に考慮すれば、慰謝料として右額が相当である。

4  合計 六四二八万二六九二円

前記1ないし3を合計すると右額となる。

5  過失相殺

前認定のとおり、亡茂に発生した損害の六割を控除すると、二五七一万三〇七六円となる(円未満切捨て)。

6  損害の填補

前認定によれば、原告らは、自賠責保険から三〇〇〇万受領しているから、右5記載の額から、これを控除すると、残額はないこととなる。

三  弁護士費用 認められない

本件訴訟の経緯等の事情に鑑み、弁護士費用を認めることはできない。

四  以上の次第で、原告らの本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井千鶴子)

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